議論と研究の結果、打ち出された妙手が「リゾート都市への変貌」という大胆な構想だった。中国へ返還されたマカオは一国二制度の下、高度な自治権を有する(資本主義制度を実行できる)特別行政区として新たな一歩を歩み始めるや、2001年にゲーミングライセンスの対外開放に関する法案を可決。
STDMの独占経営権が満期を迎える同年12月31日をもって、新たにゲーミング業ライセンスを3社に発給することを打ち出したのだ。
その結果、STDMが新たに組織した「澳門博彩股份有限公司(SJM)」、呂志和氏を代表とする香港系の「銀河娯樂場股份有限公司(ギャラクシー)、そしてラスベガス中興の祖スティーブ・ウィン氏を代表とする「永利渡假村(澳門)股份有限公司(ウィン・リゾート・マカオ)」の3社がカジノ経営権を獲得するに至った。さらにはギャラクシー社のライセンス契約を変更し、サブライセンス方式でラスベガスのカジノ王ことシェルドン・アデルソン氏が代表を務める「威尼斯人集團(ヴェネチアン)」にもカジノライセンスを発給。
以降同様の方式によりSJMのサブライセンスでアメリカ・香港系の「美高梅金殿超濠股份有限公司(MGM)」、ウィン・リゾート・マカオのサブライセンスでマカオ・オーストラリア系の「新濠博亞博彩(澳門)股份有限公司(メルコ・クラウン)」がライセンスを獲得することになり、現在まで続く六社体制が築かれることとなる。我々が現在マカオで目にする大型IR施設はすべてこの6社によって誕生したマカオの新たな歴史であり、世界最大級のエンターテインメントシティーへと転生することを試みた中国当局とマカオ各界人士の英知の結集と言えるのである。
しかしマカオの未来が順風満帆だと約束されているわけではない。中国政府が進める反腐敗・汚職摘発運動の影響により高級官僚の逮捕が相次ぐなどカジノのVIP客は減少。2015年のカジノ収入は前年に比べ約35%ダウンするなど数字は正直である。減少するカジノ収入を横目に六大カジノ企業のライセンスは、それぞれ2020~2022年に満期を迎える。だが、「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」の格言通り、マカオはこれまで何度も自らの歴史を顧みて、その都度その歴史を活かし、自らが生き残る術を体現してきた。神の名の都市・マカオにとって危機は新生の好機でしかない。それはマカオの歴史が何よりも証明している。
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